東京高等裁判所 平成3年(ネ)3705号 判決
1 被控訴人市川が、本件ショベル(編注1(キャタピラー付油圧ショベル)を所有し、自己のために本件ショベルを運行の用に供する者に当たること、本件事故は、熊倉が本件ショベルのアタッチメントの交換作業中に本件ショベルを操作して惹起されたもので、本件ショベルの運行によって生じたものであることは、当事者間に争いがない。
2 控訴人は、本件事故当日の午前一〇時一〇分ころ、本件事故現場に至り、熊倉の指示に従いアイアンフォークの爪の部分を支えていたところ、突然、熊倉が本件ショベルを操作してアームを上げため、爪が閉じて控訴人の右手指がはさまれ受傷したものであり、控訴人は、本件ショベルの運行に関与できない立場にあり、その運行に従事したとはいえず、本件事故の原因をなした本件ショベルの操作についても熊倉に具体的な指示をしておらず、原因をなす行為に関与していないから、控訴人は、自賠法二条四項にいう「運転の補助に従事する者」(以下「運転補助者」という。)に該当せず、したがって同法三条本文所定の「他人」に該当すると主張する。
他方、被控訴会社は、控訴人が、熊倉と共に交互に本件ショベルを操作するなどして右交換作業にあたり、危険防止のため本件事故当時の運転者である熊倉に適切な操作を指示すべき立場にあり、本件ショベルの運転補助者に当るから、同法三条本文所定の「他人」に該当しない旨主張する。
3 そこで、本件事故の原因をなす本件ショベルの運行に控訴人がどのように関与していたかについて判断する。《証拠》によれば、次の事実が認められる。
(一) 控訴人は、昭和五七年四月に土木建築業を営む被控訴人市川に雇用され、主として現場監督として働き、大型二種免許を有するものの本件ショベルを運転する資格を有しないが、被控訴人市川の指示で本件ショベルと同種の油圧ショベルのアタッチメントであるブレーカーからバケットへの交換作業に従事したことがあり、本件ショベルと同種の車両を運転したこともあった。
熊倉は、昭和五八年九月から被控訴人市川に雇用され、車両の運転・土木作業に従事し、本件ショベルの運転資格を有していた。
(二) 本件事故当日、熊倉は、被控訴人市川の指示で午前八時ころから、新潟県五泉市下条一二番地の資材置場(以下「事故現場」という。)において、本件ショベルのアタッチメントをバケットからアイアンフォーク(解体・積込み作業に使用されるもので、別紙「アイアンフォーク説明図(以下「説明図」という。)」の記載に類似するもの。)に付け替える作業を始めた。なお、アイアンフォークは、説明図に記載するようにバケットシリンダーにつながる二本爪部分とアームにつながる三本爪部分で物をはさむ構造になっており、説明図のA、B点にそれぞれピンを差し込み、本件ショベルのアーム、バケットシリンダー部分に連結するようになっていた。また、被控訴人市川は、熊倉が、右作業の経験に乏しく、かつ一人で右作業を行うことは困難であったため、控訴人に作業現場の下見を終えた後に熊倉を手伝うよう指示した。
熊倉は、本件ショベルに装置されていたバケットをはずし、説明図A点にピンを差し込んでアイアンフォークを固定し、B点の固定にとりかかったが、一人ではシリンダーの穴と二本爪部分の穴を合わせることができなかった。
(三) 控訴人は、現場の下見を済ませ、工具店へ立ち寄った後、当日午後一〇時一〇分ころ、本件現場に至り、熊倉の作業を手伝うことになった。
控訴人は、アイアンフォークの傍らで、本件ショベルの運転席の熊倉に対し、手を上下させてシリンダーを上下させる程度を指示し、熊倉はB点の穴が合うようにシリンダーを上下させる操作をしたが、うまくいかず、控訴人が代わって運転席につき、熊倉の指示で右と同様の操作をしたが穴を合わせることができなかった。そこで、熊倉は、シリンダーが伸びきった状態で、なお穴がわずかにずれており、シリンダーを上下させる操作では穴を合わせることができないため、控訴人に二本爪部分の横棒を引っ張り、その位置で支えているように求め、その態勢で本件ショベルを操作してアームをわずかに上げて穴を合わせることとし、控訴人もこれを了解し、腰をかがめて右横棒を両手で引っ張って支えていた。熊倉は、本件ショベルを操作したところ、アームが大きく上がり、地面に固定されていた三本爪部分が持ち上がり、これと二本爪部分が急激に閉じ、漫然と二本爪部分の横棒を引っ張ていた控訴人はその間に右手指をはさまれ、右の手の人差し指不完全切断及び中指挫創の傷害(以下「本件傷害」という。)を受けた。
以上の事実が認められ、右認定に反する甲第九号証、同第一二号証中の控訴人の供述記載部分、原審及び当審における控訴人本人尋問の各結果中の供述部分は、いずれも前掲熊倉の本人尋問の結果及び証言に照らし採用できない。
4 前示の事実によれば、控訴人は、被控訴人市川の指示に従い、熊倉とともに交互に本件ショベルを操作しアタッチメントであるアイアンフォークの取りつけ作業にあたり、本件事故の際も、右取りつけのため熊倉と協議のうえ操作方法を決し、熊倉が運転を担当したものであって、控訴人は、熊倉の運転行為に参与し、これを助けるべき地位にあったといえる。したがって、本件事故当時における本件ショベルの運行につき、控訴人は、運転補助者に当たるから、自賠法三条本文所定の「他人」に該当しないものというべきである。
(柴田 長野 犬飼)